発達相談で、お母さんから伺った3才児健診の話
2021/12/13(月) 15:55 | izawa
12月12日(日),療育教室を行いました。その中に、3才になったばかりの女のお子さんと、お父さん、お母さんが来られました。ご相談の内容は、3才児健診で言葉の遅れを指摘されたとのことでした。
それで、当日、まずお子さんにはアンパンマンの積み木を出したところ、喜んで積んだり、並べたりしながら遊び出しました。アンパンマンは好きなようで、お父さんがキャラクターが描かれた積み木を見せると「アンパン(マン)」「バイキン(マン)」などと答えてくれました。また、色のついた積み木を見せると、「あか」「あお」「きいろ」と答えてくれました。親御さんに伺うと、数字も1~10までは言うそうで、はっきり発音できるのは30~40くらいとのお話でしたが、あとで絵カードを見せたときに、不明瞭な発音もありましたが、2文字の単語を結構発音していましたので、実際は、もっと多いと思われました。それから、数は少ないのですが「だっこ して」などの2語文も話しているようでした。
さて、そのお子さんが先週3才児健診があり、お母さんと一緒に行かれたそうです。医師の問診で「何才?」と聞かれて、3本指を出して「さんしゃい」と答えて、特に問題なしということで通過しましたが、その後に心理士さんが待っていました。なぜ待っていたかと言いますと、1才半健診の時に「言葉が遅い」ということで、今後様子を見ましょうということだったそうです。ここで一度区の保健センターのチェックが入っているので、3才児健診のとき、医師とは別に心理士の面談があったのではないかと推測されます。ここまでは、日本中の3才児健診では、良くある話だと思います。
さて、心理士のところへ行き面談が始まり、心理士が近くにあったケーキを皿の上に置いてくださいと、3才の女のお子さんに言ったそうです。女のお子さんは、それをしなかったそうです。
問題は、その後です。お母さんによりますと、ただそれを見ただけで「目が合わない」「人に興味がない」「このままだと小学校入学まで言葉の遅れはどんどん開いていていく」とお母さんに言ったそうです。そして今すぐ早期療育を受けた方が良いから、隣の区役所に行って児童デイサービスの受給者証を取るように勧め、実際にお母さんが手続きをしてきたそうです。児童デイサービスについては、「ピンからキリがあり、立場上どこが良いかは言えないので、親御さんで決めてください」とのことだったそうです。
お母さんによると、ここまであっという間だったようです。ただ、このあと、おうちに帰って、お父さんと相談をしている中で、自分のお子さんが「言葉が遅い」ことは分かっていたが、今年の4月に保育園に入園し、それから言葉も出てくるようになってきていて、「今の保育園の他に別なデイサービスに行く必要があるのだろうか」と強く思うようになり、療育教室 楽しい広場の発達相談に来られたとのことでした。
今回のようなご経験をされた親御さんも、たくさんおられると思います。重要な問題がいくつかあるのですが、今回は一つだけ指摘をします。
それは、公的な健診の中の面談の中で、心理士が、目の前のお子さんが「ケーキを皿の上に置かなかった」だけで、「目が合わない」「人に興味がない」「このままだと言葉の遅れは小学校入学までにどんどん開いていく」と断定したことです。
普通、常識的に考えて、一つの場面の一つの行動を取り上げて言う言葉ではありません。その人が嫌だったのかもしれないし、恐かったのかもしれないし、緊張していたのかもしれないし、人によって違うのかもしれないし、出せばいくらでも出てきますが、ケーキを皿に置かなかった理由はいくらでも考えられます。であれば、少なくとも時間をかけて子どもさんとかかわり、いろいろな場面を経験させたり、お母さんからおうちや幼稚園での様子を聞き取りをする必要があります。
ここまで書いてきて、「なんでこんな当たり前のことをここで書かなくてはならないのか」と、つくづく思いますが、実は今回のような例は、これまでの15年間の楽しい広場の相談の中で数件ありました。つまり、少なくとも15年くらい前からあったということです。
さて、それではなぜ心理士がこのようなことを、3才児健診の中で言ったと考えられるか、ということです。
(1)まず素朴にこの心理士に「子どもの言葉の発達」についての専門
性がないという場合が考えられます。
(2)いくらなんでも、一つの行動だけで「目が合わない」「人に興味
がない」と断定することはできない、というくらいの常識はもっ
ているが、今回のケースはどうしても児童デイサービスに行って
もらうように進めたいという場合が考えられます。
(1)の場合は、「とんでもない話だ」ということです。今回はそれ以上申し上げません。
(2)の場合は十分考えられます。もし、自分の子どもが3才で言葉が遅かったならば親としてどうするか。何としても言葉を伸ばしたい。しかし、自分たちだけではどのようにして言葉を伸ばすか分からない。では、どこへ行けばよいのか?ここでハタと考えてしまします。そして多くが、今回のような健診での発達相談、あるいは保健センターでの発達相談、あるいは病院に行かれる場合もあるかもしれません。そういう中で、今の日本では、多くのところで早期療育を勧めるでしょう。それは、児童デイサービスと通称呼ばれるものです。今回のケースもそうでした。児童デイサービスとは何かと言いますと、正式には、平成24年に改正された児童福祉法に基づく「障害児通所支援」に位置付けられる「障害児通所支援事業所」ということになります。
その児童デイサービスを進める理由はきちんとあって、実は平成16年に制定された「発達障害者支援法」という法律があって、その中に、市町村は1才半や3才などの健診の際に、「発達障害の早期発見に留意しなければならない」と規定されているのです。その結果、「発達の不安=発達障害の可能性」という図式が出来上がってきたのではないかと、私(伊澤)は考えます。
つまり、親御さんの中に「障害」という言葉が全くなくても、例えば3才で言葉が遅いという発達に不安のある子どもさんに対する対応は「障害児」としての療育がほとんどであるということです。3才で言葉が遅い子どもさんの言葉を伸ばしたいが、そのためには「障害児としての通所施設」に通わなければならないということなのです。ただただ、「子どもの言葉を伸ばしたい」という親御さんの願いは、障害をもっていなくても、「障害児」にならなければならないと前に進まないということです。
それでも、その早期療育で言葉が伸びればまだよいのですが、多くの早期療育機関では、障害児として入所してくるのだからこの子どもさんは障害児という前提で考えます。つまり、言葉が遅いということは、障害のためだから、これから将来、言葉の大きな発達は考えられない、という前提で療育を進めたり、単に言葉を伸ばすための専門性がないなどのことが多いように思われます。
一つここでまとめますと、今の日本で、幼児期の子どもさんで発達の不安がある場合、それを改善するには多くの場合、その原因が「障害」であると考え、障害児として療育を受けなければならないという現実があるということです。
しかし、今回紹介したケースのような、3才で言葉が遅れているとき、その原因は障害以外にたくさんはあります。しかし、その障害以外の原因や改善の方法をはっきりと提示し、実際に行っているところが、あまりにも少ないというのが残念ながら今の実態と思います。
その、障害以外の原因と改善の方法を明らかにし、療育教室やセミナーなどでを通じて実践を進め、紹介をしているのが療育教室 楽しい広場です。ぜひ、たくさんの方々に賛同いただいて、多くの子どもさんの成長のお役に立ちたいと思っています。
今回のような、言葉の遅れを3才児健診などで指摘された場合、あるいはこれから指摘されるかもしれないという不安をおもちのお父さん、お母さん、この楽しい広場の過去のブログの中や、昨年出版した電子書籍『障害以外から原因を考える「発達療育」』の中に、たくさんある「障害」以外の原因を紹介してあります。そして、楽しい広場の発達相談、オンライン相談、メール相談などの中で、ご説明したします。
発達相談や健診などでの面談の中で「えっ、何で?」「何で障害の可能性なの?」という場面に出くわした場合は、療育教室 楽しい広場をぜひお役立てください。
長くなりましたが、今回は以上です。