療育教室 楽しい広場の療育相談やことばの教室に来られるお子さんたちの中で、来られる前に1才代、2才代、3才代で医師から「自閉症」の診断を受けているお子さんが非常にたくさんおられました。その際、お子さんとかかわりながら、そしてお母さんやお父さんからお話を伺いながら「このお子さんは自閉症なのか?」を確認していきます。その立場は、これまでも説明してきましたが、認知心理学の立場からです。
療育教室 楽しい広場の療育に2才代で来られた場合、その場合はほとんどが「発語の遅れ」の不安で来られます。ということは、「言葉を出す」「普通にしゃべる」が目的となっていきます。そのお子さんに1才代や2才代で「自閉症」の診断が出ていても、本来、認知心理学的に見たとき、自閉症の診断が出せるような発達段階に来ていませんから、指導する立場からは、問題にしません。ただ、それをとても心配されるお母さん、お父さんがおられます。その場合は、発達的に見て、発語のために必要だった生活経験の不足や偏りなどの原因を見つけて説明をし、「言葉を出す」ためにどうするかに焦点を絞っていきます。そして、改善の結果が出てくると、ひとまず安心をされることが多いです。
そして、3才を超えて、療育教室 楽しい広場に来られて、すでに「自閉症」の診断を受けている場合です。お母さん、お父さんがそれほど気にされていない場合は、さっそく発達の不安の原因を発達的視点から探し出し、改善委必要な生活経験を積み重ねていくことに焦点を絞っていきます。
ただ、残念ながら多くのお母さん、お父さんはその診断に強い不安をもたれています。お子さんが3才以降であれば、療育教室 楽しい広場では「自閉症かどうかの判断のポイント」をもっています。
それが「意図的コミュニケーション」です。これは、言語及び非言語的コミュニケーション手段(例えば、声の大きさ・トーン、表情、動作・しぐさ・雰囲気など)を使って、いろいろなシグナルを送り合い、”意図(心の状態)”を伝え合うという、高度で繊細なコミュニケーションです。そして、この「意図的コミュニケーション」に必要不可欠なものがあります。それが「心の理論」です。
さて、この「心の理論」は、認知心理学の立場から自閉症を考えるとき大切なキーワードでした。つまり、「自閉症児には心の理論が欠けている」ということが「自閉症の原因」と考えられています。「心の理論」がはっきりした形でその能力が伸びてくるのが、だいたい3才半以降であることを考えると、「意図的コミュニケーション」ができていれば、発達の不安があっても、「自閉症とは考えられない」ことになります。
意図的コミュニケーションの具体例としては「人をみて行動する」ことができているかを確認します。「よくも悪くも、お母さん、お父さん、先生の顔色を見ながら行動している」「お母さんに怒られたらお父さんの所に逃げていく」「自分に優しい先生の所には行くが、恐い先生の所には近づかない」などです。つまり、いろいろな手段を使って相手の”意図(心の状態)”を感じ取っているからこそ、そういうことができるということです。
今回の結論は「意図的なコミュニケーションができれば自閉症とは考えられない」ということです。
我々の「発達療育」においては、発達的視点から原因を明らかにし、必要な生活経験を積み重ねることで発達の不安を改善していきますが、その初めに、どうしても「自閉症の診断」がついていることに強い不安を親御さんがもたれている場合は、「自閉症の可能性があるかないか」を判断し、親御さんに伝えます。ちなみに、これまで、「知的な発達の遅れがあるかもしれない」という場合は、ありましたが「自閉症の可能性がある」と判断したことはほとんどありません。
でも、それでも、更に子どもさんの発達の不安が改善されても「障害」という言葉は、親御さんの、特にお母さんの脳裏に残っていて、なかなか消えないようです。この「障害の呪縛から解放」も、早期療育を行うものの務めでもあると考えます。